恵愛生殖医療医院は、不妊治療・体外受精・不育治療の専門医院です

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ヘパリン療法について

2018年10月20日

ヘパリン療法とは

1. 抗リン脂質抗体症候群
1983年に抗カルジオリピン(CL)抗体が、不育症との関連を見いだすことにより提唱された症候群で、比較的新しい疾患概念です。抗リン脂質抗体には抗CL抗体(IgG、gM)以外にβ2GPI依存性抗CL抗体や、ループスアンチコアグラント(LAC)があります。また当院では将来診断基準案に含まれると予想される抗フォスファチジルエタノールアミン(PE)抗体や抗フォスファチジルセリン(PS)抗体も抗リン脂質抗体症候群に準じた疾患と考えております。抗リン脂質抗体症候群では、一般に抗リン脂質抗体による血栓の存在により母体-胎児間の血流が悪化し流産・死産を来すと考えられております。また自己抗体である抗リン脂質抗体が直接赤ちゃんを攻撃してしまう場合もあります。しかし、抗リン脂質抗体陽性者が必ずしも不育症ではないことなどその機序は全てが解明されているわけではありません。
2. 抗リン脂質抗体症状群に対するヘパリン療法
未だに不明の点の多い症候群でありますので治療方針も確立されておりません。しかし、血小板の凝集を抑え血栓を作りにくくするための低用量アスピリン療法にヘパリンを併用することで生児獲得率70-80%となることがわかりました。現在この低用量アスピリン・ヘパリン併用療法が抗リン脂質抗体による不育症に対する標準的な治療法となっています。
3. ヘパリンの投与方法
皮下注射用ヘパリンカルシウム剤を5,000単位,(0.2ml)を1日2回、12時間ごとに注射します。期間は妊娠5-6週子宮内に胎嚢が確認されてから妊娠36-37週頃までです。注射は連日2回12時間ごとの原則自己注射となります。この場合、投与開始時に外来にて約3日間、自己注射の指導を行い、注射の技術を習得していただきます。注射の方法とスケジュールは指導時にお渡しいたします。またヘパリン終了直後は胎児の状態が悪くなる可能性もあり、場合により管理入院下でヘパリンを中止とすることもあります。また、抗リン脂質抗体症候群の患者さまには妊娠前から低用量アスピリンおよび、ステロイド(自己抗体の産生をおさえる)作用のあるサイレイトウ(漢方薬の一種でステロイドと同様の作用がある)の内服をしていただきます。妊娠成立後、サイレイトウは中止となり、ヘパリン注射と低用量アスピリンの内服を続けていきます。
4. ヘパリン療法の費用
不育症の血栓塞栓症予防に対するヘパリン療法が2012年1月から保険適応となりました。しかし、注射を使用する治療法であり、以前に比べると半額以下にはなりましたがそれでも高額となります。月一回の自己注射指導管理料(注射用の針代などが含まれます)が2,850円、ヘパリン注射液にかかる費用が7,110円となります。妊娠5週から36週まで行ったとすると約8万円となります。低用量アスピリンや妊婦健診料金は別料金となります。不妊治療・体外受精料金表をご参照ください。
【注意点】

1. 針付き注射器および薬の瓶の処理の仕方について
注射器のキャップと使用したアルコール綿、絆創膏などは通常の燃えるゴミとして廃棄してかまいません。しかし、針付き注射器および薬の瓶は、産業廃棄物として病院にて廃棄します。通常のゴミとしては出せませんのでご注意ください。針付き注射器は、空の500mlペットボトルに入れて病院に持ってきてください。薬の瓶は、ビニール袋などに入れ、別にして持ってきてください。

2. 自己注射の注意事項
ヘパリン皮下注射の後、もんだりして刺激すると皮下出血が生じ、青あざやしこり(皮膚硬化、血腫)のできることがあります。ヘパリン療法中は、出血が起きやすくなることがあります。以下の状態では出血量が通常より増加する可能性があります。

  1. (1) 鼻出血や歯肉出血など
  2. (2) 交通事故や外傷を受けた場合
  3. (3) 抜歯など歯科的処置
  4. (4) 緊急の出産や帝王切開
  5. (5) 妊娠とは関係のない疾患で外科的手術を受けた場合

ヘパリンの作用は約2-4時間でピークに達し、24時間以内に消失します。通常、ヘパリン投与後12時間以降であれば影響はないと考えられています。また、ヘパリンは硫酸プロタミンによって中和することができます。
よって、予定の手術であればもちろんのこと、緊急な手術でも対策をとることはできます。抜歯などの処置やその他の外科的手術が必要な場合は、必ず担当医と相談してください。(低用量アスピリンを併用している場合は、ヘパリンとは別に1週間以上の低用量アスピリン休薬が必要です)しかし、転倒による外傷や交通事故などはやはり通常時より危険ですので、十分に注意をしてください。

ヘパリン療法を実施した場合

ヘパリン療法の副作用
ヘパリンには胎盤通過性がなく、また胎児に対しての副作用は報告されていません。母体に対する副作用として出血傾向・血小板減少症があります。出血傾向ですが、この治療法で使用する用量では青あざなど皮膚症状出現の可能性があります。また注射部位の皮膚硬化がみられる場合があります。ほとんどの場合はそのままで問題がありませんが、皮膚症状が強く疼痛を伴う場合は、中止、注射部位の変更、外用薬の塗布など症状に併せて対応して参ります。また投与中の抜歯などは避けた方がよく、歯科治療や外科的手技が必要な場合はご相談ください。なおこの治療法で使用するヘパリン量では消化管出血などの生命が危険となる出血傾向出現の可能性は極めて低いと考えます。血小板減少症の発症頻度は0.1%程です。適宜血液凝固系検査を行い、出血傾向や血小板減少傾向を認めた場合には投与を中止します。

ヘパリン療法を実施しない場合

ヘパリン療法を実施せず、自然に妊娠経過をみた場合、3回流産後の流産率は約30%、4回流産後の流産率は約40-50%にものぼります。

ヘパリン療法に代わる治療法

低用量アスピリンのみを使用する方法もありますが、やはり効果が薄くヘパリンを併用した方が明らかに治療成績が良いことが分かっています。それ以外の不育症に対する検査をして原因が分かればそれに対する治療をしていきます。

同意書の撤回について

同意書をいただいた後でも、同意を撤回することはできます。その場合は担当医と、よくご相談ください。また、同意をしなくても、今後の当院での治療において不利益を受けることは一切ありません。

不同意の場合の治療の継続について

ヘパリン療法を実施することに同意できない場合は、担当医と今後の治療方法などについて、もう一度よくご相談ください。

緊急時の対応について

ヘパリン療法を実施中に、予期せぬ事態が発生した場合は、担当医が最善の対処を致します。処置内容などについては担当医の判断にお任せください。

質問の機会について

説明された内容についてわからないことがある場合は、ご遠慮なく担当医に質問をしてください。同意書をいただいたあとでも、質問することはできます。


不育症に対する末梢血染色体検査について

2018年10月20日

不育症に対する末梢血染色体検査とは

不育症のなかでも特に習慣流産とは、自然流産を3回以上繰り返すことをいいます。習慣流産の原因は様々ですが、そのうち約5%のカップルにおいて均衡型転座という染色体構造異常が認められます。2回以上の流産の後に均衡型転座保因者と診断されたカップルの流産率は約70%にもなるとされています。しかし、習慣流産の染色体転座保因者における自然妊娠での累積生児獲得率は約70%とかなり高いこともわかっています。この検査は、末梢血液(採血した静脈血液)中の白血球から染色体を取り出しGバンド法という特殊な染色を行って染色体の数や構造の異常がないかをみる検査です。

不育症に対する末梢血染色体検査を実施した場合

この検査では染色体の数や構造の異常の有無はわかりますが、それ以外のことはわかりません。また、染色体異常に関しても微小な染色体異常やモザイク(細胞によって正常と異常が混ざっている)などは検出されない場合があります。また、予期せぬ染色体異常や知りたくない情報がわかってしまう場合があります。染色体異常が診断されても治療方法はありません。
均衡型転座の場合、理論的には2分の1の赤ちゃんは染色体の数は正常となり、4分の1の赤ちゃんは構造も含め正常となります。最終的には7割のご夫婦が元気な赤ちゃんを産むことができるとされています。染色体異常の赤ちゃんであった場合は流産を防ぐことはできません。
もし御両親に染色体異常がみつかり、その後の妊娠が継続できた場合には念のため赤ちゃんの染色体検査(羊水検査)をおすすめしています。

近年では着床前診断という方法もあります。体外受精を行い、受精分割した卵の一部を染色体検査し、正常だった卵を子宮に移植するという方法です。現在当院では着床前診断はできませんので、ご希望の場合、他院へ紹介することになります。ただし、紹介してから着床前診断ができるまで数カ月から1年以上かかることがあります。また、着床前診断をしても最終的に元気な赤ちゃんを産める確率は約70%とあまり変わらないのが現状です。

不育症に対する末梢血染色体検査を実施しない場合

約5%の頻度でみつかるカップルの染色体異常がわからないと、次回の妊娠でも流産となる確率が約70%となります。ただし染色体異常が診断されても治療方法はありません。

それ以外の不育症に対する検査をして原因が分かればそれに対する治療をしていきます。

同意書の撤回について

同意書をいただいた後でも、同意を撤回することはできます。その場合は担当医と、よくご相談ください。また、同意をしなくても、今後の当院での治療において不利益を受けることは一切ありません。

不同意の場合の治療の継続について

染色体検査を実施することに同意できない場合は、担当医と今後の治療方法などについて、もう一度よくご相談ください。

質問の機会について

説明された内容についてわからないことがある場合は、ご遠慮なく担当医に質問をしてください。同意書をいただいたあとでも、質問することはできます。


不育症検査の流れ

2018年10月20日

不育症の検査の流れ

奥さまの検査
  • ・内診、超音波検査、子宮卵管造影、子宮鏡検査
  • ・血液検査
  • ・ホルモン測定(LH、FSH、プロゲステロン(P4)、プロラクチン・甲状腺機能検査)
  • ・血糖値測定
  • ・感染症検査(B型肝炎、C型肝炎、梅毒、クラミジアなど)
  • ・染色体検査
  • ・血液線溶凝固因子(一般検査およびプロテインC、S活性検査、第XII、XIII因子)
  • ・自己抗体検査 (抗核抗体、抗カルジオリピン抗体、抗カルジオリピンβ2GP1抗体、抗フォスファチジルセリン抗体、抗フォスファチジルエタノールアミン抗体、ループスアンチコアグラント)
ご主人の検査

不育症検査費用の目安

不育症検査はほとんどが保険適応外となるため、料金が高額となります。
料金については「費用について」をご参照ください。

治療方針・実際の方法・治療法別成功率・費用など

ヘパリンおよびアスピリン併用療法
比較的新しい治療方法で抗リン脂質抗体症候群(抗リン脂質抗体とよばれる抗体が陽性で血栓を作りやすく、過去に流産を繰り返してしまった方だけではなく原因不明の子宮内胎児発育遅延や死産の既往がある方)、凝固線溶系の異常のある患者様が対象となります。
もともと別々の機序で血液を固まりにくくする作用のある2種類の薬を組み合わせることにより血栓(血液のかたまり)を作りにくくし、結果として流産を防げると考えられていますが、最近ではヘパリンには免疫系にもはたらく効果があるのではないかともいわれています。
詳細は「ヘパリン療法について」をご参照ください。
夫リンパ球免疫療法
比較的古くから行われている治療法で、そのメカニズムは明らかにはされていませんが、簡単にいえば『本来お母さんの体にとっては異物である赤ちゃんが免疫のはたらきで排除されるのを防ぐ』はたらきを強めると考えられています。
近年の報告では、効果がはっきりと認められず、また、リンパ球療法により自己抗体が誘導されることがあり、これは新たな不育症の原因になりうることがあるので、行われることが少なくなってきています。
※当院では現在夫リンパ球免疫療法は行っていません。
その他の治療
甲状腺機能異常や高プロラクチン血症に対する治療や、黄体ホルモンを補充する治療は必要に応じて並行して行っていきます。子宮の奇形や子宮筋腫に対しては手術療法として子宮形成術やレゼクトスコープ(子宮鏡を用いて筋腫を切除する方法)などを行うこともあります。
原因が不明の場合、経過観察をすることになります。それでも最終的には70%以上のカップルが元気な赤ちゃんを産むことができます。
治療後も再度流産してしまった場合
それぞれの治療方法で約80%の患者様が妊娠の維持に成功している一方で、残念ながら2割の方は再度流産してしまっているのが現状です。
治療にも関わらず流産してしまった場合、流産処置を行うとともに、流産の原因を解明する必要があります。
初期に流産してしまった赤ちゃんを調べるとその約60%に染色体の異常があることがわかっています。そのため、流産の原因が赤ちゃんそのものにあったのか治療の効果がなかったためなのかを判断し、次回の治療方針を決めるうえで赤ちゃんの染色体の検査が非常に重要になります。
保険がきかないため高額(約12万円)ではありますが、流産してしまった赤ちゃんの染色体検査をお受けになることをおすすめします。
何か不明な点があれば遠慮なく担当医にお申し出ください。

不育治療について

2018年10月20日

不育症とは

日本産科婦人科学会用語委員会の定義では、妊娠22週未満の妊娠中絶(分娩)を流産とし、その自然流産を連続して3回以上繰り返す状態を習慣流産と呼んでいます。 また連続2回の自然流産を繰り返した患者様を反復流産と呼ぶこともあります。さらにこれらの流産に加え、早産や死産などにより生児が得られない患者様を総括して不育症とよんでいます。不妊症となるカップルは約10%ですが、不育症の頻度は大分低く、約1-2%とされています 。

不育症でない方でも1回の妊娠あたりに流産となる確率は15-20%もあり、流産とは決してめずらしいわけではありません。そして初期流産のほとんどは、赤ちゃん側の染色体異常などの大きな病気が原因のため治療法はありません。そのため流産が全く起きないと仮定すると病気の赤ちゃんが多く生まれてしまうことになります。流産とは悲しいものですが、元気な赤ちゃんを産むためには必要なことでもあるのです。
しかし、2回連続して流産するということは20-30人にひとりであり、3回連続して流産することは確率的にはかなり低くなります。そのため3回以上流産を繰り返した場合、不育症である可能性がかなり高くなります。

また、女性側の年齢も流産のしやすさに影響を与えます。たとえば44歳以上になると妊娠1回あたりの流産率は50%以上にもなります。これは卵巣機能が衰えてくるため卵子の染色体異常の確率が高くなるからです。高齢になると不妊症となってしまうのも、同様の理由です。

以下に日本における体外受精年齢別成績を示します。
年齢とともに妊娠率(赤い線)が下がり、流産率(紫の線)が急激に上昇してくるのがわかります。

※日本における体外受精年齢別成績(2021年)

※日本における体外受精年齢別成績(2021年)

以前は不治の病とされた時代もありましたが、少しずつ原因も解明され治療法も確立されてきました。不妊症と並び、近年で最も検査方法や治療方法が進んできている分野の一つです。

不育症の原因

以下のようなことが原因とされています。原因と思われる異常が複数見つかることや、逆に原因を特定できない場合もあります。

1.子宮や膣の奇形、子宮筋腫などの形態の異常
不育症患者での子宮奇形の頻度は12.6%と一般女性の約3倍とされています。原因の一つとは考えられますが、子宮奇形があっても不育症とならない方もいます。手術療法が明らかに有効であるという報告も少なく、治療するかどうかは慎重に判断しなければなりません。
2.各種ホルモンの異常(黄体機能不全・高プロラクチン血症など)
黄体機能不全や高プロラクチン血症、一部の多嚢胞性卵巣症候群などは流産の原因とされており、異常があればそれに対する治療を行っていきます。
3.内科的異常(甲状腺機能異常・糖尿病など)
甲状腺機能は亢進症・低下症ともに流産の原因となりえるため、甲状腺ホルモンを正常化していきます。また糖尿病の患者様で血糖値の管理が悪いと流産や赤ちゃんの先天奇形の原因となります。場合によっては専門の内科の先生と協力してみていくこともあります。
4.感染症(ウィルス、細菌など)
クラミジアや梅毒感染は流産の原因となります。抗生剤により治療していきます。
5.カップルの染色体異常
不育症のなかでも約5%のカップルにおいて均衡型転座という染色体のかたちの異常が認められます。2回以上の流産の後に均衡型転座保因者と診断されたカップルの流産率は約70%にもなるとされています。治療法はありませんが、不育症の染色体転座保因者における自然妊娠での累積生児獲得率は約70%とかなり高いこともわかっています。
6.凝固機能異常(血栓ができることが流産の原因になるといわれている)
もともと凝固異常(血液が固まりやすい)の方では、妊娠すると血栓を作りやすくなります。血栓の存在により母体-胎児間の血流が悪化し流産、・死産を来すと考えられています。
7.免疫系の異常(自己免疫異常・同種免疫異常)
自己免疫疾患の一つである抗リン脂質抗体症候群では、抗リン脂質抗体により血栓を形成し、上記と同様の理由で流産・死産を来すと考えられています。また自己抗体である抗リン脂質抗体が直接赤ちゃんを攻撃してしまう場合もあります。