不育症のヘパリン療法とは?対象となる人や効果、費用や副作用を解説

不育症のヘパリン療法とは?対象となる人や効果、費用や副作用を解説

「ヘパリン療法を勧められたが、どのような治療方法なのだろうか」
「費用面や副作用の有無を把握しておきたい」

不育症の治療に取り組むなかで、このような不安を抱えていませんか。

ヘパリン療法は、血液を固まりにくくする薬を使い、流産・死産の原因となる血栓を防ぐ治療です。不育症の原因によっては効果が期待できる一方、自己注射や副作用への不安から、ためらう方も少なくありません。

本記事では、ヘパリン療法とはどんな治療なのか、対象となる人や具体的な効果などを解説します。治療に必要な費用の相場や、想定される副作用などもわかりやすくまとめているので、ぜひ最後まで目を通してみてください。

この記事の監修者
恵愛生殖医療医院 院長 林 博
恵愛生殖医療医院 院長林 博

1997年、東京慈恵会医科大学卒業。同大学病院にて生殖医学に関する臨床および研究に携わる。

2011年4月恵愛病院生殖医療センター開設。生殖医療専門医・臨床遺伝専門医の資格等数多くの資格を資格を保有。

自ら体外受精・顕微授精や不育治療を経験しており、患者さま目線の治療を心がけている。

プロフィールを見る
Index目次

不育症の治療法「ヘパリン療法」とは

ヘパリン療法とは、血液を固まりにくくする「ヘパリン」という抗凝固薬を用いて、流産や死産を防ぐ治療法です。

抗リン脂質抗体症候群の患者や、血液が固まりやすい体質の方は、血栓を引き起こすケースが多く見られます。その結果、胎盤へと向かう血流が滞り、胎児の発育がさまたげられて、流産や死産につながるケースも少なくありません。

そこで、ヘパリンによって血栓を防ぎ、胎盤の血流を保つことで、妊娠の継続を助けます。血栓の予防効果がある低用量アスピリンだけを使う場合よりも、ヘパリンを併用したほうが出産に至る割合が高まったとする報告もあり、不育症の改善に有効な治療法といえるでしょう。

なお、血友病や血小板減少症を患っている場合など、出血しやすい方はヘパリン療法を受けられない可能性がある点に注意してください。ヘパリン療法の対象になるかどうかは、検査で不育症の原因や健康状態を確かめたうえで判断されます。

ヘパリンと低用量アスピリンの違い

ヘパリンと低用量アスピリンは、どちらも血栓を予防する目的で使用されますが、作用の仕組みや投与方法が異なります。

低用量アスピリンは、血小板が固まりにくくなるよう働きかける飲み薬です。一方、ヘパリンは血液を固まりにくくする作用をもつ抗凝固薬で、皮下注射によって投与します。

作用する仕組みが異なるため、抗リン脂質抗体症候群による不育症では、それぞれの特徴を生かした併用療法が標準的な治療として行われています。

なお、すべての不育症でヘパリンとアスピリンを併用するわけではありません。不育症の原因によって適切な治療法は異なるため、検査結果をもとに医師が治療方針を決定します。当院の不育症に対する取り組みは不育治療のページをご覧ください。

ヘパリン療法の方法

ヘパリン療法は、患者自身が自宅で注射を行う「自己注射」が基本です。ヘパリンは胃や腸で分解されるため、飲み薬として投与できません。

一般的には、ヘパリンカルシウムを1日2回、およそ12時間ごとにお腹の皮下へ注射します。最初は医師や看護師から打ち方の指導を受け、慣れてきたら自宅で続けていく流れです。

ヘパリン療法は妊娠を確認できたころに開始するケースが多く、その後は分娩の時期まで継続します。

注射する場所を毎回少しずつ変えるなど、負担を減らすコツも医師から指導を受けられるので安心してください。何よりも、医師の指示に従い、決められた時間に忘れず注射することが大切です。

不育症のヘパリン療法はいつからいつまで続ける?

ヘパリン療法を開始・終了する時期は、不育症の原因や抗リン脂質抗体の状態などによって異なります。一般的には、妊娠が成立したことを確認したあとに治療を開始し、分娩前まで継続するケースが多くみられます。

一方で、抗リン脂質抗体症候群と診断されている場合や、抗体価が高い場合には、妊娠前から低用量アスピリンを開始し、妊娠成立後にヘパリンを併用することもあります。

また、アスピリンは妊娠27週6日まで、ヘパリンは妊娠36週ごろまたは分娩直前まで継続する方法が標準的な治療例として示されています。

ただし、治療を開始・終了する時期は、患者さんの病状や出産方法、医療機関の方針によって異なります。自己判断で治療を始めたり中止したりせず、主治医の指示に従って治療を継続することが大切です。

ヘパリン療法にかかる費用

ヘパリン療法にかかる費用は、保険適用となるかどうかで大きく変わります。保険適用となる場合は原則3割負担となり、おおむね以下の費用がかかるものと考えておきましょう。

項目費用目安(保険適用後・3割負担)
在宅自己注射指導管理料(月1回・針代含む)2,850円
ヘパリン注射液7,110円

*費用は当院で治療を行った場合の金額です。医療機関によって異なる場合があるため、実際の料金は各医療機関へご確認ください。当院のヘパリン療法の詳細はヘパリン治療のページをご覧ください。

特殊な器具・注射液を用いるヘパリン療法は、保険が適用されても比較的高額な費用がかかります。また、ヘパリン療法は継続して行う必要があるため、総額の費用は大きくなりやすい点に注意してください。

なお、ヘパリンと併用するケースが多い低用量アスピリンは保険適用外です。具体的には、60日分の内服薬処方料などで4,000円~6,000円程度かかります。

ただし、ヘパリン療法に要する金額は投与量や医療機関によっても異なるため、費用面に不安がある場合は、早めに確認しておきましょう。

不育症のヘパリン療法に保険は適用される?

不育症のヘパリン療法は、2012年1月から保険が適用されています。ただし、一定の条件を満たす必要があり、誰でも保険の対象になるわけではありません。

【不育症のヘパリン療法が保険適用となる場合】

対象者所見
抗リン脂質抗体症候群の妊婦原因不明の流産(10週未満)が3回以上連続している 34週以前の重症妊娠高血圧症腎症や子宮内発育遅延児出産の既往がある 妊娠10週以降に原因不明の流産・死産を経験している のいずれかに該当し、 ループスアンチコアグラント 抗カルジオリピン抗体(IgG,IgM) 抗β2GPI抗体 のいずれか1つ以上が一定の基準値を超え、12週間以上の間隔をあけた検査で2回以上陽性だった場合
その他の血栓性素因を有する妊婦先天性アンチトロンビン欠損症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症などが所見される場合

ヘパリン投与による副作用

不育症の治療においてヘパリンは有用な薬ですが、投与によって副作用があらわれることもあります。いざというときに落ち着いて対応できるように、以下の症状例を参考にしてみてください。

分類主な症状の例
ショック・アナフィラキシー血圧低下、意識低下、呼吸困難、チアノーゼ、蕁麻疹など
出血脳出血、消化管出血、肺出血、硬膜外血腫、後腹膜血腫、腹腔内出血、術後出血、刺入部出血など
血小板減少・HIT(ヘパリン起因性血小板減少症)明らかな血小板減少、脳梗塞、肺塞栓症、血栓症、シャント閉塞、回路内閉塞など
過敏症そう痒感、蕁麻疹、悪寒、発熱、鼻炎、気管支喘息、流涙など
皮膚にみられる副作用脱毛、白斑、出血性壊死など
肝臓にみられる副作用AST上昇、ALT上昇
長期投与による副作用骨粗鬆症、低アルドステロン症
投与部位にみられる副作用発赤、腫脹、硬結、そう痒感、局所の疼痛性血腫など

副作用が疑われる症状がみられた場合は、自己判断で投与量を変更・中止せず、速やかに医療機関へ連絡して指示を受けましょう。呼吸困難や意識障害、大量の出血など重い症状がある場合は、緊急の受診が必要です。

なお、ヘパリンは胎盤を通過しないため、胎児への副作用は報告されていません。

ヘパリン療法における注意点

ヘパリン療法を実施するにあたっては、いくつかの注意点があります。

使用済みの注射針や注射器は、医療機関や自治体から指示された方法で処分しましょう。通常のごみとして自己判断で捨てず、医療機関から渡された専用の廃棄容器などに保管し、指定された方法で返却・処分します。

専用容器が用意されていない場合は、医療機関や自治体の指示に従い、針が外へ飛び出さない丈夫な容器で一時保管しましょう。

また、ヘパリンは血液を固まりにくくする薬なので、あざができやすくなったり、出血が止まりにくくなったりすることがあります。歯ぐきからの出血や鼻血が続いたり、出血をともなう外傷を受けた場合などは、早めに医師へ相談してください。

注射を打ち忘れたときは、自己判断で量を調整せず、どう対応すべきかを医師に確認しましょう。不安な点をそのままにせず、こまめに相談することが、安全で負担の少ない治療につながります。

ヘパリン療法をしても流産することはある?

ヘパリン療法は、流産や死産を完全に防げる治療ではありません。

抗リン脂質抗体症候群による不育症では、生児を得られる可能性を高めることが期待されていますが、治療を受けても流産に至るケースはあります。なお、標準治療である低用量アスピリンとヘパリンの併用療法では、生児獲得率は70〜80%程度(出典:日本医科大学付属病院)と報告されています。

また、不育症には胎児の染色体異常や子宮形態異常、夫婦いずれかの染色体異常など、さまざまな要因が関係しているとされ、原因不明となるケースも少なくありません。

その点、ヘパリン療法が有効とされているのは主に抗リン脂質抗体症候群を原因とした不育症であり、原因不明の不育症に対しては有効性を示す十分な根拠がないことを覚えておきましょう。

不育症と診断された場合は、まず原因を詳しく調べたうえで、自分に適した治療法を選択することが重要です。ヘパリン療法が必要かどうかは、検査結果やこれまでの妊娠経過などを総合的に判断して決定されます。検査の内容や費用については「不育症の検査内容を徹底解説|受けるタイミング・費用・保険適用も紹介」で詳しく解説しています。

まとめ

不育症のヘパリン療法は、血液を固まりにくくして血栓を防ぎ、流産・死産をくり返さないようにする治療です。主に抗リン脂質抗体症候群などの血栓性素因を有する方が対象で、一定の条件を満たせば保険が適用されます。

治療内容は自己注射が基本となり、妊娠の確認後から分娩の時期まで続けるケースが一般的です。

ヘパリン療法は不育症の有効な治療方法ですが、出血や注射部位の異常など、複数の副作用も確認されています。具体的な治療方針については、医師と十分に相談したうえで決めていきましょう。また、治療中も不安なことがあれば、その都度主治医に確認することが大切です。

不妊治療のこと、まずはご相談ください

和光市駅南口から徒歩40秒。土日も診療しています。
「自分はどの治療から始めればいい?」そんな疑問もお気軽にご相談いただけます。