反復着床不全

何度移植してもうまくいかないあなたへ。原因を丁寧に解き明かし、あなただけの道を探します。

反復着床不全(着床障害)とは

体外受精において、見た目に問題のない元気な受精卵(胚)を複数回子宮に戻しても、なかなか妊娠に至らない状態を「反復着床不全(RIF)」または「反復着床障害」と呼びます。

一般的には「40歳未満の方が良好な胚を3回以上移植しても妊娠しない場合」と定義されますが、当院では患者様の負担を考え、良好な胚を2回移植しても結果が出ない場合から詳しく調べることをお勧めしています。

「着床」とは何か

受精卵が子宮の壁(子宮内膜)に潜り込み、根を張る現象です。これは受精卵と子宮の非常に精密な「対話」によって成り立っています。

反復着床不全は、この「対話」がどこかでうまくいっていないサインです。しかし、決して「妊娠が不可能」ということではありません。原因を探り、対策を立てることで道が開ける可能性は十分あります。

なぜ着床がうまくいかないのか:主な原因

  1. 受精卵(胚)の染色体異常
    最も多い原因です。見た目は元気な胚であっても、染色体(体の設計図)の数に過不足があると、着床後に成長が止まってしまいます。女性の加齢とともに増加しますが、若い方にも一定割合で起こります。
  2. 子宮内環境の問題
    ポリープや筋腫が物理的に着床を妨げたり、子宮の形に歪みがある場合があります。また、自覚症状のない「慢性子宮内膜炎」や「子宮内フローラの乱れ」が、受精卵を拒絶する環境を作ることもあります。
  3. 免疫寛容の異常
    通常、妊娠中は体が受精卵を「攻撃しない」特別なモードに切り替わります。しかしこのバランスが崩れ、免疫が受精卵を「敵」とみなして攻撃してしまうと着床が成立しません。
  4. 血液凝固機能の異常
    受精卵が着床する際、栄養を届けるための細い血管が作られます。血液が固まりやすい体質(血液凝固異常)だと、その血管に小さな血栓ができ、着床が維持できなくなります。不育症とも深く関係する重要な要因です。
  5. 着床の窓(WOI)のずれ
    子宮が受精卵を受け入れられる期間は、1ヶ月のうちわずか数日。この「着床の窓」が人によっては数時間〜1日以上前後にずれていることがあります。どれほど良質な胚を移植しても、タイミングが合わなければ着床しません。
  6. その他(生活習慣・精子・全身疾患)
    糖尿病・甲状腺疾患のコントロール不良、極端な肥満・痩せ、喫煙は着床に悪影響を与えます。見落とされがちな「精子の質」の問題、ビタミンDなどの栄養素の不足も、着床を妨げる微細な要因として近年注目されています。

当院で行う検査:原因を見つけるための大切なステップ

どこに問題があるかを突き止めるために、最新の設備と知見を用いた多角的な検査を実施しています。

  1. PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)※自費診療
    移植前の胚の一部を採取し、染色体の数が正しいかを確認する高度な検査です。染色体正常が確認された「正常胚」のみを移植することで、妊娠率が飛躍的に向上し、流産リスクも大幅に減少します。当院では現在導入に向けて準備を進めております。詳細が決まり次第、改めてご案内いたします。
  2. 子宮鏡検査 + 慢性子宮内膜炎検査(CD138)※一部自費
    カメラで子宮内を直接観察し、ポリープ・筋腫・癒着を確認します。同時に子宮の組織を少し採取し、「CD138」という特殊な細胞を調べることで、自覚症状のない慢性子宮内膜炎を診断します。
  3. 子宮内フローラ検査(EMMA/ALICE、Varinos)※自費診療
    子宮内の細菌バランス(善玉菌の割合)を調べます。善玉菌が少ない状態は着床を妨げる環境となるため、フローラを整える治療へとつなげます。
  4. 免疫寛容検査(Th1/Th2比)※自費診療
    攻撃的な免疫(Th1)と、それをなだめる免疫(Th2)の比率を測定します。母体が受精卵を攻撃しやすい状態にあるかを数値で判定できます。
  5. 血液凝固検査(不育症精密検査)※一部保険適用
    抗リン脂質抗体などの自己抗体の有無や、プロテインS・プロテインC・第XII因子などの凝固因子を精密に測定します。普段の健康診断ではわからない「血液の固まりやすさ」を検査します。
  6. ERA / ERpeak検査(着床の窓の検査)※自費診療
    実際の移植周期と同じように子宮内膜を準備し、移植予定日に内膜の一部を採取して遺伝子解析を行います。その方の「着床の窓」がいつ開くのかを数時間単位で特定し、最適な移植時刻をオーダーメイドで決定します。
  7. 全身チェック・精子検査※一部保険適用
    甲状腺ホルモン・血糖値・ビタミンD濃度の測定など、全身状態を把握します。男性側には精液検査を行い、精子の質に隠れた問題がないかを探ります。子宮形状の詳細確認には3D超音波やMRI検査を行うこともあります。

治療方針:検査結果に基づく一人ひとりへの対応

検査で得られた情報をもとに、皆様一人ひとりに合わせた「最短の妊娠ルート」を組み立てます。

  • 染色体異常への対応
    PGT-Aで染色体正常が確認された「正常胚」のみを移植します。正常胚1回の移植での成功率は約60〜70%と非常に高く、何度も移植を繰り返す精神的・経済的負担を大幅に軽減できます。(現在準備中)
  • 子宮内環境の改善
    慢性子宮内膜炎には特定の抗生剤を約2週間服用(約9割で改善)。フローラ異常にはラクトフェリンや膣錠で環境を整えます。ポリープや癒着は子宮鏡下手術で除去。これらの多くは保険適用内で行えます。
  • 免疫寛容異常への対応
    Th1/Th2比が高い場合、「タクロリムス」を移植前から服用(自費)。抗リン脂質抗体陽性の方には「サイレイトウ(柴苓湯)」という漢方薬を妊娠前から処方。ステロイドに似た免疫鎮静効果があり、保険適用で処方できます。
  • 血液凝固異常への対応
    低用量アスピリンの服用や、ヘパリンの自己注射(1日2回)で「抗凝固療法」を行います。不育症の基準を満たせばヘパリンは保険適用となります。
  • 着床の窓のずれへの対応
    ERA・ERpeak検査の結果に基づき「個別化胚移植」を行います。「窓が24時間遅れて開くタイプ」なら移植を1日遅らせるだけで、何度移植してもうまくいかなかった方が妊娠されるケースは少なくありません。
  • 全身管理・その他
    甲状腺治療やビタミンD補充など、全身の土台作りを並行して行います。原因がどうしても特定できない場合でも、治療継続で最終的に70%以上の方が元気なお子さんを抱いています。

当院からのメッセージ

「妊娠できない」のではなく、「まだ理由が見つかっていないだけ」かもしれません。

着床は、人類にとって未だ神秘の多い現象です。しかし医学は確実に進歩しており、以前は「原因不明」とされていたケースでも、今は解決策が見つかるようになってきています。

私たちは最新のデータと温かいサポートを両輪に、皆様の願いを全力で支えます。